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バイナンスのハッキング被害|約63億ドル流出の経緯と開発者を狙う攻撃への備え

執筆:ホワイトハッカー攻撃演習・弱点診断編集部

画面に赤い警告の三角形が映るノートPCから赤いケーブルが伸び、サーバーでできた金庫の開いた扉から、何本もの管を通って硬貨が流れ出していくイラストと、記事タイトル

この記事の要点

  • Binanceでは協定世界時2026年10月29日20時05分ごろ(日本時間30日5時05分ごろ)ホットウォレットが侵害され、約63億ドル相当が流出しました。Binanceによると、約30億ドルはオンチェーンで凍結されています。
  • Binanceは当初、DevOpsエンジニアのノートPCが侵害された可能性を挙げ、その後の調査で別の侵入点も見つかったと説明しています。秘密鍵の漏えいの証拠は見つかっていません。
  • TRM Labsは北朝鮮のTraderTraitorの犯行とhigh confidenceで評価していますが、2026年10月31日朝の時点で、政府機関による帰属の発表は確認できていません。
  • TraderTraitorは、2024年にDMM Bitcoinから約482億円を盗んだと警察庁やFBIなどが特定したグループで、採用担当者を装って技術者に近づき、試験と称したコードを実行させる手口が公表されています。
  • Binance Japanは、預かり資産はグローバルのホットウォレットとは別のコールドウォレットで管理しており影響は確認されなかったとしつつ、予防措置として暗号資産の出庫を止めています(10月30日夕方時点)。

世界最大の暗号資産取引所Binanceで、協定世界時2026年10月29日20時05分ごろ(日本時間30日5時05分ごろ)、ホットウォレットが侵害され、約63億ドル相当の暗号資産が引き出されました[2][5]。ブロックチェーン分析会社のTRM Labsは、暗号資産の窃取として過去最大で、北朝鮮の攻撃グループ「TraderTraitor」によるものと評価しています[5]。Binanceは初期調査の結果として、開発・運用(DevOps)を担うエンジニアのノートPCが侵害された可能性を挙げました[1]。その後の調査では、ノートPCのほかにも侵入点が見つかったとしています[2]。

TraderTraitorは、2024年に日本のDMM Bitcoinから約482億円相当の暗号資産を盗んだと、警察庁やFBIなどが特定したグループです[6][7]。この記事では、Binance・Binance Japanの公式発表と、警察庁・FBI・米CISA・Microsoftの資料をもとに、2026年10月31日朝の時点で分かっていることを整理します。そのうえで、暗号資産を扱わない会社も含めて、開発・運用担当者の端末と権限、送金や承認の仕組みで見直す点を解説します。

バイナンスのハッキングで何が起きたのか?

Binanceのホットウォレット(インターネットにつながり、出金処理に使う財布)が侵害され、協定世界時2026年10月29日20時05分ごろから、約63億ドル相当の暗号資産が攻撃者のアドレスへ移されました[2][5]。TRM Labsによると、流出は10のブロックチェーンにまたがり、大半は約20分で終わりました[5]。

約63億ドル

Binanceが推定する影響額

1ドル=158円(2026年10月30日の相場)で編集部が換算すると約1兆円[1]

約30億ドル

オンチェーンで凍結された額

Binanceの発表(2026年10月30日)[1]

10

流出が起きたブロックチェーンの数

大半は約20分で移動(TRM Labs)[5]

約4倍

2025年2月のBybitの被害(約15億ドル)との比較

暗号資産の窃取として過去最大(TRM Labs)[5]

Binanceは、損失をSAFU(Secure Asset Fund for Users。利用者のための資産保護基金)と自社資金ですべて補填し、利用者の資金は安全だとしています[1]。続報では、63.4億ドルを超える自社資金を確保し、そのうち50億ドルは盗まれたのと同じ種類の暗号資産(USDC・USDT・BTC・ETH・BNBなど)で持っているため、影響額の約80%をすでに手当てできたと説明しました。残りは市場や相対取引で買い付けているとしています[2]。TRM Labsの集計では、窃取時点の価格で約63.6億ドルにのぼります。協定世界時10月30日0時30分の時点で、攻撃者は発行体が凍結できない資産を約24億ドル分持っていました[5]。

  1. 10月28日

    攻撃の準備が始まる

    攻撃者の操作用ウォレットが、資金の出どころを分かりにくくするサービス「Tornado Cash」から少額を3回受け取りました。盗み出しの少なくとも36時間前です[5]。

  2. 10月30日5時05分ごろ

    XRP Ledgerから流出が始まる

    XRP Ledgerを皮切りに、Bitcoin・Ethereum・Tron・SolanaなどにあるBinanceのウォレットから、攻撃者のアドレスへ資金が移されました(協定世界時29日20時05分ごろ)。約3時間後の第2波ではAvalancheとPolygonのウォレットからも移され、流出は10のブロックチェーンに及びました[2][5]。

  3. 10月30日5時20分ごろ

    Ethereumのホットウォレットが乗っ取られる

    攻撃者は協定世界時29日20時20分、事前に用意した50件の署名を1つの取引で送り、ホットウォレットを攻撃者だけが指示を出せるプログラムに委ねさせ、3分24秒後に残高を一括で移しました[5]。

  4. 10月30日

    Binanceが初期調査の結果を公表

    DevOpsエンジニアのノートPCが侵害された可能性、影響額約63億ドル、約30億ドルの凍結、損失の全額補填を発表しました。出金を一時停止していること、入金は通常どおりであることも説明しています[1]。

  5. 10月30日

    Binance Japanが入出庫を一時停止

    顧客資産への影響は確認されていないとしたうえで、安全確認のため全暗号資産の入出庫を止めました。夕方の発表では、入庫は通常どおりで、出庫の停止を続けるとしています[3][4]。

  6. 10月31日4時33分

    Binanceが続報を公表

    ノートPCに加えて別の侵入点も見つかったと説明しました。出金は、セキュリティ確認の完了を条件に、約34時間以内に段階的な再開を始めることを目標とし、検証できた技術的な所見は約48時間以内に共有する見込みだとしています[2]。

入口は開発・運用担当者のPCだったのか?

Binanceは初期調査で、DevOpsエンジニアのノートPCが侵害され、そこから攻撃者がサービスコンテナ(アプリケーションを動かす区画)に入り、不正な出金の取引を送った可能性があると説明しました[1]。ただし続報では、その後の調査で別の侵入点も見つかったとしており、侵入の全体像はまだ公表されていません[2]。

共同CEOのRichard Teng氏は、攻撃者は1人のエンジニアの権限を使っただけではなく、「ワンクリック」で済む行為でもなかったと述べています。調査は特定の個人に責任を帰していないとも説明しました[11]。秘密鍵(財布を操作するための秘密の情報)が漏えいした証拠は、続報の時点でも見つかっていません[2]。

はっきりさせておくと、攻撃者は1人のエンジニアの権限を使っただけではありませんし、1回の「ワンクリック」の操作でもありませんでした。より複雑な攻撃の過程をたどっています。

To be clear: the attacker did not simply use one engineer's permissions, and this was not a single 'one-click' action. It involved a more complex attack process.

— Richard Teng(Binance共同CEO。BleepingComputerの報道による)[11]

署名の仕組みを操られた可能性(TRM Labsの評価)

TRM Labsは、ブロックチェーン上の記録から、攻撃者がBinanceのホットウォレットの署名の仕組みを操り、自分が選んだ取引に署名させる能力を得た可能性が最も高いと評価しています[5]。Ethereum以外のチェーンでは通常の署名済みの送金で資金が移されており、チェーンも鍵の種類も違う財布が、そろって約30分のうちに攻撃者向けの有効な署名を出していたためです[5]。

Ethereumでは、2025年5月に導入された「EIP-7702」という仕組みが使われました。財布が署名した許可を載せると、その財布の動作をプログラムに委ねられる仕組みです。攻撃者は財布の送信回数の連番に合わせた50件の許可を事前にまとめて用意し、そのうち1件が有効になったことで、ホットウォレットを攻撃者だけが指示を出せるプログラムに委ねさせました[5]。署名がまとめて事前に作られていたことから、TRM Labsは、攻撃者の使えた時間が限られていたか、署名をシステム経由で依頼する必要があった可能性を指摘しています[5]。

TraderTraitorとは?北朝鮮の関与はどこまで分かっているのか?

TraderTraitor(トレイダートレイター)は北朝鮮を背景とするサイバー攻撃グループで、北朝鮮当局の下部組織とされる「Lazarus Group(ラザルスグループ)」の一部とされています[6]。今回の件では、TRM Labsがオンチェーンとオフチェーンの情報にもとづき、high confidence(確度が高い)でTraderTraitorの犯行と評価しています[5]。

一方でBinanceは、法執行機関と協力して犯人の特定を進めているとするにとどめています[1]。CNBCによると、FBIは事案を把握し、関係する官民の組織と連絡を取っていると述べました。報道されたコメントに、攻撃者の特定に関する言及はありません[12]。TRM Labsは、少額の資金で操作用の財布を用意する、盗む前から準備を重ねる、事前に得た署名を一気に使う、といった点が過去の北朝鮮関連の事件と一致するとしています[5]。

TraderTraitorとの関係が公表・指摘された主な事件
時期被害帰属を示した主体表現
2024年5月[7]DMM Bitcoin(日本)から約482億円相当[6]警察庁・FBI・米国防省サイバー犯罪センター(DC3)[6]TraderTraitorによる窃取を「特定した」と公表[6]
2025年2月Bybitから約15億ドル相当[8]FBI[8]北朝鮮に責任があると公表し、この活動をTraderTraitorと呼ぶ[8]
2026年10月Binanceから約63億ドル相当[1]TRM Labs(民間の分析会社)[5]high confidenceと評価[5]。政府機関の発表は10月31日朝時点で確認できず

2026年10月31日時点。Bybitの被害日は「2025年2月21日ごろ」とされています[8]。

米国では2022年4月18日に、FBI・CISA・米財務省がTraderTraitorについて注意喚起を出しました。日本でも同年10月14日に、金融庁・警察庁・内閣サイバーセキュリティセンターが「ラザルス」と呼ばれる攻撃グループについて注意喚起を出しています[6][9]。FBIは、TraderTraitorの活動はJade Sleet・UNC4899・Slow Piscesとも呼ばれ、同じ会社の複数の従業員を同時に狙う標的型のソーシャルエンジニアリングがしばしば見られるとしています[7]。

侵入は、暗号資産企業の従業員に向けて、さまざまな連絡手段で大量のスピアフィッシングのメッセージを送ることから始まります。受け手はシステム管理やソフトウェア開発・IT運用(DevOps)を担う人であることが多く、メッセージの多くは採用活動をまねて高給の仕事を持ちかけ、マルウェアを仕込んだ暗号資産アプリをダウンロードさせようとします。米政府はこのアプリを「TraderTraitor」と呼んでいます。

Intrusions begin with a large number of spearphishing messages sent to employees of cryptocurrency companies—often working in system administration or software development/IT operations (DevOps)—on a variety of communication platforms. The messages often mimic a recruitment effort and offer high-paying jobs to entice the recipients to download malware-laced cryptocurrency applications, which the U.S. government refers to as "TraderTraitor."

— FBI・CISA・米財務省の注意喚起(2022年4月)[9]

日本のDMM Bitcoinはどのように狙われたのか?

FBIによると、2024年3月下旬、攻撃者はビジネスSNSのLinkedInで採用担当者を装い、日本の暗号資産ウォレット管理ソフトの企業の従業員に接触しました。採用前の試験を装ってGitHub上の不正なPythonのプログラムへのURLを送り、従業員はそのコードを自分のGitHubにコピーした後、侵害されたとしています[7]。

  1. 2024年3月下旬

    採用担当者を装って接触

    ウォレット管理システムに入れる立場の従業員に、採用前の試験と称して不正なPythonのプログラムへのURLを送りました[7]。

  2. 2024年5月中旬以降

    ログイン状態を盗んでなりすます

    セッションクッキー(ログインした状態を保つための情報)を悪用して従業員になりすまし、そのソフトウェア企業の、暗号化されていない通信システムに入りました[7]。

  3. 2024年5月下旬

    正規の取引依頼を改ざん

    DMM Bitcoinの従業員による正規の取引の依頼を改ざんしたとみられ、4,502.9 BTC(当時で約3億800万ドル)が失われました[7]。

  4. 2024年12月24日

    警察庁とFBIなどが公表

    警察庁・FBI・米国防省サイバー犯罪センター(DC3)が、TraderTraitorによる約482億円相当の窃取を特定したと連名で公表しました[6]。

攻撃者は取引所そのものではなく、取引所の業務に関わるソフトウェア会社の従業員を最初の入口にしました。そのうえで、盗んだセッションクッキーでログイン済みの状態を引き継ぎ、本人として社内のシステムに入っています[7]。一般に、多要素認証を設定していても、ログインした後の状態(セッション)を盗まれると、追加の本人確認なしに入られる場合があります。業種を問わず注意したい点です。

警察庁などが公表した接近の手口

警察庁・内閣サイバーセキュリティセンター・金融庁は2024年12月24日、警察の捜査と分析で分かった具体的な手口と緩和策を注意喚起として公表しました[6]。標的は日本人に限らず、国内外に住む外国人を含む暗号資産関連事業者の従業員で、ブロックチェーンやWeb3と呼ばれる技術の技術者も標的になりうるとしています[6]。

警察庁などが示した手口の流れ
段階手口の例
接近第三者の名前や顔写真を悪用して企業幹部などを装い、SNSでメッセージを送る。経歴やスキルに合わせて「あなたからプログラミングを学びたい」「私のプログラムの不具合を直してほしい」と持ちかける[6]
場所の移動別のSNSやメッセージアプリでのやり取りを求めることがある。送ったメッセージを受信者側の記録から消せるサービスを使いたいためと考えられる[6]
感染GitHubに置いた「不具合があって動かない」というプログラムを実行させる。通信先に攻撃者のサーバーを混ぜ、応答を処理する部分にコードを実行できる関数を紛れ込ませる可能性がある[6]
なりすましPCに保存された認証情報やセッションクッキーを盗み、本人になりすまして業務システムに入る[6]
窃取システム構成を短期間で把握し、なりすました本人の役割や権限で暗号資産を盗めるところと方法を探す[6]

2024年12月24日の注意喚起(警察庁・内閣サイバーセキュリティセンター・金融庁)の「手口例」を要約[6]。

かばんの印が付いた封筒の吹き出しが、ノートPCに向かう人物に届き、そこから点線がサーバーの区画、書類に判を押す機械へと続き、硬貨が何本もの道に分かれて流れ出していく図
採用や技術相談を装った接近から、端末の乗っ取り、本人へのなりすまし、署名・送金の操作へと進む流れ。TraderTraitorの手口として公表されている例を一般化したイメージで、Binanceの侵入経路を示すものではありません

AIで接近の手口はどう変わっているのか?

Microsoftは2026年10月29日、北朝鮮の攻撃グループ全体のAIの導入度を「高い」と評価しました。FBIがTraderTraitorの別名として挙げるJade Sleetについては、すべての工程でAIを日常的に使う段階にあるとしています[10][7]。Microsoftは、Jade Sleetが生成AIを使って、採用を装う接近の準備を短期間で大量にこなしているとみています[10]。

同社によると、Jade Sleetは2026年6月8日から12日にかけて、AIを使うブロックチェーン情報企業を装った採用担当者として、サイバーセキュリティ、AI、ブロックチェーン、人材紹介の企業などの個人に接触し、ソフトウェア技術者の求人を口実に接触し、反応した相手とは面接を設定していました。同じ短い期間に、さらに2つの偽装企業で同様の接触を行っていました[10]。

Microsoftによると、求人や面接を装う手口を使うSapphire Sleet・Jade Sleet・Coral Sleetと、偽の身元で在宅の仕事を得るJasper Sleetは、AIを次のように使っています[10]。

  • 求人や投資の話を装った、相手ごとのおとりの文面を作る[10]
  • 求人を装ってマルウェアを届ける資料や、不正なリポジトリ(ソースコードの置き場)を作る[10]
  • 外国語の文面を翻訳し、自然な言い回しに整える[10]
  • 履歴書や経歴、面接での受け答えを作り、コーディング試験にも対応する[10]
  • プロフィール写真や映像・音声・背景を加工する[10]

別のグループのCoral Sleetは、2026年4月以降、非公開のGitHubリポジトリにマルウェアを仕込む手順を運用しているとされます[10]。開発者が普段使う場所そのものが入口になりうるということです。ただしMicrosoftは、現時点の証拠では、AIは自律的に攻撃を進めるためではなく、既存の手口と作業の効率を高めるために使われているとしています[10]。

編集部の見方では、手口の骨格は、2022年に米当局が警告した「採用を装って技術者に近づき、プログラムを実行させる」流れから大きくは変わっていません[9]。AIで変わったのは、相手に合わせた文面や偽の会社を作る速さと量です。AIで顔や声まで偽る北朝鮮IT労働者の手口は、APT攻撃と生成AIの記事で解説しています。

日本の企業に関係はあるのか?

直接の影響として、Binance Japanは2026年10月30日、預かり資産はグローバルのホットウォレットとは別のコールドウォレット(インターネットから切り離して管理する財布)で管理しており、今回の影響は確認されなかったと発表しました。予防措置として暗号資産の出庫は止めています[4]。

同社は当初、全暗号資産の入出庫を止め、利用者に不審なURLや連絡に反応しないよう呼びかけました[3]。同日夕方の発表では、暗号資産の入庫・取引と法定通貨の入出金は通常どおりで、出庫は48時間以内の再開を見込むとしています。万が一、利用者の被害が確認された場合は全額を補償する予定です[4]。

編集部が注目するもう一つの共通点は、承認や署名の仕組みが「依頼の中身」を確かめきれなかった可能性があることです。DMM Bitcoinでは正規の取引の依頼が改ざんされたとみられ[7]、Binanceでは署名の仕組みが攻撃者の選んだ取引に署名した可能性が指摘されています[5]。TRM Labsは、署名の基盤と承認の経路を、チェーンや財布の階層ごとに分けるよう求めています。今回は単一の攻撃者が、数時間のうちに10チェーンの財布の有効な署名を得ていたためです[5]。

米当局は2022年の注意喚起で、侵入後の活動は相手の環境に合わせて行われ、最初の侵入から1週間以内に終わった例もあるとしています[9]。入られてから気づくまでの時間が短いほど、被害を抑えられる余地が広がります。

今週中に見直すことは?

警察庁などの注意喚起は、システム管理者と従業員のそれぞれに向けて対処例を挙げています[6]。暗号資産を扱っていなくても、開発・運用の担当者がいる会社ならそのまま使える項目が多くあります。次のチェックリストは、その対処例を中心に、確かめたい点をまとめたものです。

開発・運用担当者と従業員向け(今週中に確認)

  • 外部から受け取ったコードやプログラムは業務用PCで実行しない。どうしても動かす場合は、業務用PC以外か仮想マシンを使うルールにする[6]
  • 受け取ったコードは、実行する前にコードエディタで開き、折り返し表示にして中身を確かめる[6]
  • SNSで採用や技術相談の連絡を受けたら、ビデオ通話を求める。何度も断られる場合は不審と判断し、相手のプロフィールとやり取りのスクリーンショットを保存する[6]。不審な接触は社内の窓口に報告する
  • ソースコードの確認や実行を急がせる相手、別のSNSやメッセージアプリに誘う相手には注意する[6]
  • 事前に許可された場合を除き、私用PCで機微な業務システムにアクセスしない[6]

システム管理者向け(今月中に確認)

  • 本番環境・クラウド・送金や承認のシステムに入れる権限を棚卸しし、業務の期間に限った必要最小限の範囲にする。期間が終わったら速やかに縮小・削除する[6]
  • 多要素認証を導入する[6]
  • 普段と違う時間帯・曜日、居住地以外の地域やVPNサービス、貸与PC以外の端末(UserAgentの違い)からのアクセスを、認証ログとアクセスログで監視する[6]
  • PCの電源が切れている間のアクセスなど、EDR(端末の不審な動きを検知する仕組み)やPCのログと矛盾する記録がないかを確かめる[6]
  • 退職した従業員のアカウントはすぐにロックし、認証の試みがあれば検知できるようにする[6]
  • 従業員の協力を得てダミーの認証情報をブラウザに記憶させておき、それが使われたら検知できるようにする[6]
  • 登録から数日〜数週間しかたっていない新しいドメインへの通信がないか確認する[6]
  • ログを集中して保存・検索できる仕組みを作り、感染後にPCのログが消されても異常を追えるようにする[6]
  • 高額の送金・出金や振込先の変更は、依頼が届いた経路とは別の経路で宛先と金額を確かめてから承認する

ペネトレーションテストでは何を確かめるのか?

今回のような攻撃に備えるには、「開発・運用担当者の端末が乗っ取られた」ことを前提に、攻撃者がどこまで届くかを実際に試す方法があります。侵入を防ぐ対策が働くかに加えて、入られた後に重要な操作まで届かないか、届く前に気づけるかを確かめるためです。

侵害を前提にしたペネトレーションテストで確かめる観点
観点確かめること
到達範囲開発・運用担当者のPC1台から、本番環境、クラウドの管理画面、ソースコード、CI/CD(自動でビルド・配備する仕組み)、送金や承認のシステムのどこまで入れるか
ログイン状態の悪用盗まれたセッションクッキーで、多要素認証を通らずに業務システムに入れないか。セッションの有効期間や端末との結びつきは適切か
権限の広さ1人のアカウントで、高額の送金や本番の設定変更まで完結できないか。権限が業務の期間を過ぎても残っていないか
承認・署名の独立性承認や署名の仕組みが、依頼の宛先や金額を別の経路で確かめているか。依頼の中身を書き換えられたときに気づけるか
検知普段と違う時間帯・場所・端末からのアクセスや、ダミーの認証情報の使用で警告が上がり、担当者に届くか
人への接近採用担当者や技術相談を装った連絡を訓練で再現し、従業員がコードを実行せずに報告できるか

警察庁などの注意喚起[6]とTRM Labsの提言[5]をもとに、編集部が整理したもの。

脆弱性診断がシステムの弱点を網羅的に洗い出すのに対して、ペネトレーションテストは攻撃者の目線で侵入の経路をつなげ、重要な資産まで届くかを確かめます。TraderTraitorのように人と端末を入口にする攻撃に備えるには、技術的な弱点と人の行動の両方を組み合わせて試すことが有効です。対象にできる範囲は診断・テストのメニューに、攻撃者が使う代表的な手口はハッキング・AI詐欺の手口にまとめています。

盗まれたログイン状態や使い回されたパスワードで入られる不正ログインへの備えは、不正ログイン対策の記事で、メール・電話・SNSを使って人をだます手口への備えは、ハッキング対策は「人」からの記事で解説しています。

まとめ

Binanceでは協定世界時2026年10月29日、ホットウォレットから約63億ドル相当が流出しました。Binanceは当初、DevOpsエンジニアのノートPCの侵害の可能性を挙げ、その後、別の侵入点も見つかったとしています[1][2]。TRM Labsは北朝鮮のTraderTraitorの犯行と評価しています[5]。ただし、10月31日朝の時点で、政府機関による帰属の発表は確認できていません。

TraderTraitorは、2024年に日本のDMM Bitcoinから約482億円を盗んだと警察庁やFBIなどが特定したグループです。採用担当者や技術相談を装って技術者に近づき、コードを実行させ、盗んだログイン状態で本人になりすます手口が公表されています[6][7]。暗号資産を扱わない会社でも、外部のコードを業務用PCで実行しないルール、権限の期間限定と棚卸し、普段と違うアクセスの監視、送金や承認の別経路での確認から見直してください。Binanceは、何が起きたかと教訓、追加の安全策をまとめた詳しい技術報告を公表するとしています[2]。

よくある質問

バイナンスのハッキングでは何が起きたのですか?

協定世界時2026年10月29日20時05分ごろ、暗号資産取引所Binanceのホットウォレットが侵害され、約63億ドル相当の暗号資産が攻撃者のアドレスへ移されました。Binanceによると約30億ドルはオンチェーンで凍結され、損失は利用者のための資産保護基金と自社資金で全額補填するとしています。出金は一時停止中で、Binanceはセキュリティ確認の完了を条件に、段階的に再開を始める目標を示しています(2026年10月31日朝時点)。

バイナンスのハッキングは北朝鮮の犯行なのですか?

ブロックチェーン分析会社のTRM Labsは、北朝鮮の攻撃グループTraderTraitorの犯行とhigh confidence(確度が高い)で評価しています。一方、Binanceは法執行機関と協力して犯人を特定中としており、2026年10月31日朝の時点で、政府機関による帰属の発表は確認できていません。現時点では民間の評価として読むのが適切です。

Binance Japanの利用者の資産に影響はありますか?

Binance Japanは2026年10月30日、預かり資産はグローバルのホットウォレットとは別のコールドウォレットで管理しており、影響は確認されなかったと発表しました。予防措置として暗号資産の出庫を一時停止し、48時間以内の再開を見込むとしています(10月30日18時の発表時点)。被害が確認された場合は全額補償する予定です。最新の状況は同社のお知らせで確認してください。

TraderTraitorとはどんな攻撃グループですか?

北朝鮮を背景とするサイバー攻撃グループで、Lazarus Group(ラザルスグループ)の一部とされています。2024年に日本のDMM Bitcoinから約482億円相当の暗号資産を盗んだと警察庁やFBIなどが特定し、2025年2月のBybitの約15億ドルの窃取もFBIが同じ活動によるものと公表しました。採用担当者などを装って技術者に近づく手口が知られています。

暗号資産を扱っていない会社にも関係がありますか?

あります。開発・運用担当者のPCには、本番環境やクラウド、送金や承認のシステムに入るための認証情報やログイン状態が集まりやすくなっています。Microsoftは、採用を装う接触がサイバーセキュリティやAI、人材紹介の企業の個人にも向けられたと報告しています。外部のコードを業務用PCで実行しないルールや、権限の期間限定、普段と違うアクセスの監視は、どの会社でも役立ちます。

採用担当者を装った接触は、どう見分ければよいですか?

警察庁などの注意喚起は、ビデオ通話を求めて何度も断られる場合は不審と判断すること、ソースコードの確認や実行を急がせる兆候に注意すること、相手のプロフィールとやり取りの画面を保存することを挙げています。別のSNSやメッセージアプリに誘われる場合も注意が必要です。受け取ったコードは業務用PCで実行せず、エディタで開いて中身を確かめてください。

出典・参考資料

  1. 公式発表Security Incident Update (2026-10-30)Binance 2026-10-30 公開 2026-10-31 閲覧
  2. 公式発表Security Incident Update #2 (2026-10-30)Binance 2026-10-30 公開 2026-10-31 閲覧
  3. 公式発表Binanceグローバルでのセキュリティ事案に関するお知らせBinance Japan株式会社 2026-10-30 公開 2026-10-31 閲覧
  4. 公式発表Binanceグローバルでのセキュリティ事案を受けた、Binance Japanの対応に関するお知らせBinance Japan株式会社 2026-10-30 公開 2026-10-31 閲覧
  5. 調査レポートNorth Korea Steals USD 6.36 Billion From Binance in the Largest Hack in HistoryTRM Labs 2026-10-29 公開 2026-10-31 閲覧
  6. 公式発表北朝鮮を背景とするサイバー攻撃グループ TraderTraitor によるサイバー攻撃について(注意喚起)警察庁・内閣サイバーセキュリティセンター・金融庁 金融庁 2024-12-24 公開 2026-10-31 閲覧
  7. 公式発表FBI, DC3, and NPA Identification of North Korean Cyber Actors, Tracked as TraderTraitor, Responsible for Theft of $308 Million USD from Bitcoin.DMM.comFBI 2024-12-23 公開 2026-10-31 閲覧
  8. 公式発表North Korea Responsible for $1.5 Billion Bybit HackFBI(IC3) 2025-02-26 公開 2026-10-31 閲覧
  9. 注意喚起TraderTraitor: North Korean State-Sponsored APT Targets Blockchain CompaniesFBI・CISA・米財務省 CISA 2022-04-18 公開 2026-10-31 閲覧
  10. 調査レポートTracking AI adoption in North Korean threat actor tradecraftMicrosoft Threat Intelligence Microsoft 2026-10-29 公開 2026-10-31 閲覧
  11. 記事Binance links $6.3 billion crypto theft to compromised DevOps laptopBleepingComputer 2026-10-30 公開 2026-10-31 閲覧
  12. 記事$6.3 billion Binance hack is largest crypto theft on recordCNBC 2026-10-29 公開 2026-10-31 閲覧

本記事の事実関係は、2026.10.31 時点で上記の出典をすべて再確認しています。 Binanceの原因調査は継続中で、技術報告は未公表(2026年10月31日朝時点)。帰属は民間の分析会社の評価で、政府機関の発表は確認できていない。

#バイナンス#TraderTraitor#北朝鮮#暗号資産#ソーシャルエンジニアリング#APT攻撃#ペネトレーションテスト

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